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父と娘

89歳になる父がターミナルケアとなった。昨年末に心不全を起こし救急搬送され入院。カテーテル手術したのだが、コロナ禍で面会ができず、また院内クラスターでコロナに罹患したりして、長い病院生活がつづいた。その結果、歩行困難と認知症が劇的に進み、病院で要介護4と診断された。もう1人で暮らすのは難しいとのことで、慌てて老人ホームを探し、そこに転居した。

 

 

転居後2ヶ月くらいは、3度きちんとでてくる美味しいご飯やおやつ、入浴の介助などにとても感動して喜んでいたのだか、3ヶ月が経つ頃から、様子がおかしくなってきた。覚醒がはっきりせず、コロナ禍で1時間限定の面会に行っても、目を開けない。呼びかけにも応えなくなったのだ。ホームの職員さんに聞くと、夜も寝返りができなくなって、2時間置きの体位交換が必要とのこと。あまりの急な展開に驚いてしまった。

 

行ってもなにもできず帰ってくる面会・・・ ちょっと気持ちが落ちてしまいそうだったが、気を取り直して、「そうだ!アロマの精油でハンドマッサージしてこよう!」と思い立った。

 

 

50年ぶりぐらいに触れる父の大きな手・・・ 決して仲の良い親子ではなかった。いつも母には亭主関白でオレの言う事は絶対と何事にも頑固な父に、中学生の頃から反抗し、父と2人だけで同じ部屋にいるのは居心地が悪かった。なのにこんな形で手に触れる事になるとは・・・

 

しかし手をマッサージしているとなぜか胸がいっぱいになった。子供の頃、この大きな手につながれた記憶が蘇ってきたのだ。小1の時、なかなか泳げなかった私をプールに連れて行ってくれて、泳ぎの特訓をしてくれた。溺れそうになる私の手を何度も何度も引っ張りあげてくれた頼りになる大きな手・・・

 

自分がこんな感情を持っていたことが衝撃だった。

 

両手のマッサージが終わり、そろそろ時間だなぁと帰り支度をしていたら、父が急に目を開けた。私の事がわかったかどうかはわからないが、私にとっては貴重な1時間だった。

 

またアロマの精油を持ってできるだけ面会に行こうと思っている。父にも私にも癒しの時間となるように。

 

紫の